令和3年 公認会計士試験 論文式試験解答 企業法

令和3年 公認会計士試験 論文式試験解答 企業法

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 なお、この解答はクレアール会計士講座が独自に作成したものになります。

企業法

第1問

問1

 乙会社の株式の帳簿価額の甲会社の総資産額に占める割合は5分の1を超えており、かつ、本件譲渡により甲会社が効力発生日において乙会社の議決権の過半数の議決権を有しないこととなっている。よって、甲会社は、本件譲渡の効力発生日までに株主総会の特別決議により本件譲渡に係る契約の承認を得なければならない(467条1項2号の2イロ・柱書、309条2項11号)。それにもかかわらず、本件譲渡に係る契約の承認は得られていないので、本件譲渡の効力が問題となる。

 譲渡の効力は譲受会社の善意・悪意を問わず無効(絶対的無効)と解する。譲渡会社が子会社の株式の大半を失うことは事業の重要な一部を失うのと同じく譲渡会社の株主の利益に重大な影響を与えるし、株主総会の承認を要するか否かの基準は明確であるため譲受会社の取引の安全を害することはないからである。
 よって、本件譲渡の効力は無効である。

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問2

 Bが提起したのは本件決議の取消訴訟であるから、Bの請求が認められるためには、取消訴訟の訴訟要件をみたすことと取消原因が認められることが必要である。

 決議取消しの訴えの訴訟要件は、株主等の原告適格を有する者が、決議の日から3箇月以内に訴えを提起する必要がある(831条1項柱書、828条2項1号)。本問では、原告Bは、株主であり、決議の日から2箇月後に訴えを提起しているので、訴訟要件をみたしている。

 取消原因としては、本件準共有株式についてのCの議決権行使が違法であることから、決議方法の法令違反(831条1項1号)が考えられる。株式の準共有者は、そのうち1人を権利行使者として指定し、その者の氏名等を会社に通知しなければ、会社が権利行使に同意をした場合(106条ただし書)を除き、権利行使をすることはできない(同条本文)。本件準共有株式は権利行使者の指定及び通知を欠いているが、Cの議決権行使に甲会社が同意しているので当該権利行使は適法ともいえる。しかし、権利行使者の指定及び通知を欠いたまま権利行使がなされた場合において、当該権利行使が民法の共有の規定に従っていないときは、会社が同意をしても、当該権利行使は適法とならないと解する。106条ただし書は、共有の規定の特則(民法264条ただし書)である106条本文の適用を会社の同意によって排除する趣旨だからである。そして、共有に属する株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、管理行為(民法252条本文)であるから、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられるものと解する。
 本問では、本件準共有株式の議決権行使の合意も特段の事情もないため、その持分だけでは過半数とはならないCの議決権行使は共有の規定に従っていない。よって、本件決議には決議方法の法令違反という取消原因がある。また、決議に影響を及ぼさないとはいえないから、裁量棄却831条2項)も認められない。よって、Bの請求は認められる。

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第2問

問1

 「経営判断の原則」とは、取締役の経営判断に一定の裁量を認め、事実の認識又は意思決定の過程に著しい不注意がなければ、結果として会社に損害が生じたとしても、取締役の善管注意義務(330条、民法644条)又は忠実義務(355条)の違反を認定しないという原則をいう。会社経営は、不確実な状況で迅速な決断を迫られる場合が多く、リスクがつきものであり、会社をとりまく将来の経営環境を完全に予測することはできないにもかかわらず、経営判断の結果として会社に損害が生じたからといって、事後的に裁判所が善管注意義務・忠実義務の違反を常に認定することにより会社が取締役の責任を問えるとしたら、その業務執行を萎縮させることになりかねない。よって、同原則は肯定されるべきである。そうだとすると、法令違反があった場合には経営判断の裁量は認められないから、同原則は適用されるべきではない。

 本問では、Aは、Bに本件報告書を本件債務超過がない旨の虚偽の内容で作成するよう命じ、Cらに本件報告書の財務書類に係る監査証明において無限定適正意見を表明させたことにより、虚偽有価証券報告書提出罪(金商法197条1項、207条1項)が成立しており、法令違反がある。
 よって、経営判断の原則は適用されないから、Aの主張は認められない。

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問2

 Dによる本件訴え(847条)は、適法に提起されている。そこで、Dの主張が認められるためには、Aが本件訴えの内容となっている任務懈怠責任の要件を423条1項)みたす必要がある。

 任務懈怠責任の要件は、①役員等が、②故意又は過失により、③任務を懈怠し、④会社に損害が生じ⑤任務懈怠と会社の損害との間に相当因果関係が認められることである。
 ①Aは取締役であるから「役員等」に該当する。②③Aは、故意に金商法の犯罪を犯したという法令違反により任務を懈怠している。

 では、④はどうか。本件罰金の額である1億円は、Aが戊会社に賠償すべき「損害」に含まれるか。
 423条1項は賠償すべき「損害」の範囲を限定していないから、会社が取締役の任務懈怠によって罰金の支払を余儀なくされた場合において、その罰金を損害から除く根拠はない。また、会社が罰金を納付することによって罰金の目的は達せられたのであって、その後に任務懈怠をした取締役への損害賠償請求により罰金相当額についての損害が実質的に填補されたとしても、それは任務懈怠をした取締役に対する責任追及を認める会社法の規定に基づき取締役の損害賠償責任が認められた結果にすぎず、これをもって、会社が自己に科された罰金を取締役に「転嫁」したと評価することはできない。
 したがって、会社が納付した罰金の額は取締役が賠償すべき「損害」に含まれると解すべきであるから、Dの主張は妥当でない。

 本問では、④本件罰金を納付したことにより戊会社に生じた1億円の損害は、賠償すべき「損害」であり、⑤この損害とAの法令違反には相当因果関係が認められる。よって、Dの請求は認められる。

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上記解答について

※上記解答はクレアール会計士講座が独自に作成したものであり、「公認会計士・監査審査会」が公式に発表したものではございません。ご理解のうえ、ご利用下さい。

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