平成25年 公認会計士 試験 論文式試験解答

平成25年 公認会計士試験 論文式試験解答 監査論

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監査論

第1問

問題1

 いかに適切に整備、運用されている内部統制であっても、判断の誤り・不注意、複数の従業員による共謀、経営者による不正等により無機能化されて有効に機能しない可能性があるほか、想定外の事項や非定形的な取引への未対応といった固有の限界もあるため、企業の財務報告の信頼性を確保するという目的の達成について、絶対的な保証を提供することが出来ない。
 そこで、経営者が自らが作成した財務諸表について外部の第三者による監査を受け、その信頼性について合理的な保証を受けることによって、経営者は投資者に対して一定の信頼性を有する財務諸表を開示することが可能となり、有利な資金調達等も可能となる。したがって内部統制が整備改善されたとしても、外部の第三者による監査の存在意義が失われることはない。

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問題2

 企業が大規模化するとそれに比例して企業の利害関係者数も増加することから、財務諸表の虚偽表示が生じた場合の影響も、広範かつ多額になると考えられる。国民経済が健全に発展するためには、投資者や債権者が保護される必要があり、そのためには、投資者や債権者が自らの意思決定のために用いる財務書類その他の財務に関する情報の信頼性が確保されなければならない。そこで、会計及び監査の専門家である公認会計士が、独立した立場から、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することによって、会社等の公正な事業活動、投資者および債権者の保護等を図り、国民経済の健全な発展に寄与することが期待されることになり、企業が大規模化すればするほど、外部の第三者による監査の必要性は増大することになる。

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問題3

 経営者の判断が必要となる具体的な事例として、繰延税金資産の計上と回収可能性の判断を想定する。繰延税金資産の回収可能性は、将来事象の予測や見積りに依存していることから、監査人は、会計上の見積りの合理性を判断するために、経営者が行った見積りの方法の評価、その見積りと監査人の行った見積りや実績との比較等により、十分かつ適切な監査証拠を入手しなければならない。
 将来減算一時差異や税務上の繰越欠損金について繰延税金資産を計上できるか否かの判断にあたっては、当該資産が将来の税金負担額を軽減する効果を有するか否かについての判断をしなければならず、監査においても経営者による判断の妥当性を検証しなければならない。この検証を適切に行うためには、将来の課税所得の十分性やタックスプランニングの存在等について、監査人は慎重に検討しなければならない。具体的には、会社の業績予測が示されている事業計画や資産の売却計画、取締役会議事録等を閲覧し、所定の承認が得られていることを確認するとともに、その経済的合理性や実現可能性等について、慎重に検討しなければならない。

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問題4

 監査を実施する者が職業的専門家であることが求められる理由は、監査が何人にも容易に行いうる簡便なものではなく、相当の専門的能力と実務上の経験とを備えた監査人にして初めて、有効適切にこれを行いうることが可能であるからである。また、企業活動や財務諸表、会計基準は高度化、国際化、複雑化してきていることや、監査の一環として重要性の高い機密情報の受渡し等が行われることから、監査人は、第三者的な立場や公正なる判断を下しうる立場を堅持することに加えて、高度の人格を有していること及び守秘義務等を遵守することが求められることになる。このような要件を満たした監査人にしてはじめて、依頼人である企業は、安んじて監査を依頼することができる。

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第2問

問題1
問1

 不正が、不正な財務報告と資産の流用とに区分される理由は、不正による重要な虚偽表示が財務諸表に与える影響の程度や発見の難易度、さらには監査人が不正による重要な虚偽表示を発見できないリスクの程度といった点において、両者が相違するためである。
 資産の流用は財貨の費消を伴う不正であり、主として従業員不正に関連し、財務諸表に与える影響も、多くの場合特定の勘定科目に限定される。一方不正な財務報告(粉飾)は財貨の費消を伴わない不正であるが、主として経営者不正に関連し、財務諸表全体に大きな影響を与えることを意図して行われることが多い。また、多くの場合、隠蔽工作(企業外の第三者との共謀、文書の偽造等)を伴うことから、資産の流用に比べて発見が困難で、監査人が不正による重要な虚偽表示を発見できないリスクは、資産の流用と比べて非常に高いといえる。

問2

 監査人は、不正の摘発それ自体に責任を持つのではなく、経営者が作成した財務諸表の適正表示に関する意見を表明するため、財務諸表には全体として重要な虚偽の表示がないことについて合理的な保証を得る責任がある。ここで、合理的な保証とは、財務諸表の性格的な特徴(内部統制、見積りや判断の介入など)や監査の特性(試査、時間的制約など)を踏まえたうえで、職業的専門家としての監査人が一般に公正妥当と認められる監査の基準に従って監査を実施し、絶対的ではないが、相当程度の心証を得たことを意味する。
 不正は、重要な虚偽表示の原因となることから、監査人は財務諸表全体について重要な虚偽の表示がないことについて合理的な保証を得るために、不正な報告あるいは資産の流用の隠蔽を目的とした重要な虚偽の表示が財務諸表に含まれる可能性を考慮しなければならないとされている。

問3

 職業的懐疑心とは、経営者の誠実性に予断を持たず、常に財務諸表に重要な虚偽の表示があるかもしれないという疑いを持つ精神と批判的精神を意味しており、目に見えるかたちでの注意の行使だけでなく、一歩踏み込んで虚偽の表示の摘発を心理的により強く意識すべきことを意味している。不正な財務報告は経営者の指示に基づき、投資家を欺く目的で行われることが多く、内部統制の無効化を伴うことも多い。また、不正を隠蔽するために巧妙かつ念入りに仕組まれたスキームを伴う場合や得意先等の第三者との共謀を伴っている場合には、発見が極めて困難となる。したがって、会計監査人が監査の全プロセスを通じて職業的懐疑心を保持し、不正による虚偽表示の可能性に常に注意することはきわめて重要であり、不正な財務報告を識別する上できわめて重要な意義があると考えられる。

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問題2
問1

記号:イ
 想定される具体的な手口:売価の20%以内の範囲で、売価システムの変更登録が店長の責任で店舗端末機から行われている。そのためいったん定価で販売した製品について、売上額を取消し、値引後の単価で改めて売上を計上することにより差額を着服することが考えられる。
 対応する実証手続:得意先への請求書と売上高や値引きに関する帳簿記録とを照合する。

記号:ウ
 想定される具体的な手口:本社は各店舗から送付された棚卸結果報告書をもとに、帳簿在庫数を実際在庫数に修正している。そのため、棚卸を行った際に実際在庫数を店長が過大に報告し、売上原価を過小に計上することによって売上総利益を過大計上することが考えられる。
 対応する実証手続:各店舗における棚卸に立会うことによって牽制機能を働かせるとともに、本社の帳簿記録と棚卸資産実際在庫数の一致を確かめる。

記号:エ
 想定される具体的な手口:期末在庫の売価評価額は、期末時点での登録売価に実際在庫数を乗じることにより店舗ごとに計算されるため、各店舗において単価の不当な変更や値引き、値引きの取消し等を行うことにより、期末棚卸資産残高を水増しする不正が考えられる。
 対応する実証手続:期末在庫の登録単価の変更記録を閲覧し、異常性がないかどうかを確かめる。

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上記解答について

※上記解答は独自に作成されたものであり、「公認会計士・監査審査会」が公式に発表したものではございません。ご理解のうえ、ご利用下さい。

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