平成27年 公認会計士試験 論文式試験解答 民法

平成27年 公認会計士試験 論文式試験解答 民法

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民 法

第5問

問1
 包括的代理権を有している理事AがBを代理して行った当該売買契約の効力は有効にBに帰属する(99条1項)から、原則として、Bは、BC間の売買契約の効力を否定することはできない。しかし、Aには、当該契約の際に自己の居住する宅地建物を購入する便宜を図ってもらうという代理権を濫用する意図をもってB所有の土地を廉価で売却している。そこで、代理人に代理権濫用の意図がある場合には、本人に代理行為の無効を主張させてその保護を図ることができないか。
 たしかに、代理権を濫用している代理人には、本人に法律効果を帰属させる意思はあり、これと本人に法的効果を帰属させる表示との間には不一致はないから、心裡留保とはいえない。しかし、代理権を濫用している代理人には、自己の利益を図る意思があるから、これと本人に法律効果を帰属させる表示との間には不一致があり、心理留保に類似する。そこで、相手方が代理権の濫用の意図につき悪意または有過失の場合には、93条ただし書を類推適用して、本人は、代理行為の無効を主張できると考える。
 本問では、CがAの濫用の意図につき悪意又は有過失の場合には、93条ただし書の類推適用により、Bは、BC間の売買契約の効力を否定することができる。一方、CがAの濫用の意図につき善意かつ無過失の場合には、Bは、BC間の売買契約の効力を否定することはできない。
 CがAの濫用の意図につき善意かつ無過失の場合には、Dは甲土地の所有権をCから有効に承継するので、Bは、Dに対して、甲土地が自己の所有であることを主張できない。一方、CがAの濫用の意図につき悪意または有過失の場合には、Dは甲土地の所有権をCから承継できないので、Bは、Dに対して、甲土地が自己の所有であることを主張できるのが原則である。しかし、虚偽の外観作出につき真実の権利者の関与がある場合にまで第三者の保護を否定すると、不動産取引の安全を害する。そこで、94条2項の類推適用によって第三者を保護できないか。
 94条2項は、虚偽の外観の作出について帰責性のある本人の犠牲によって虚偽の外観を信頼した第三者を保護する趣旨である。そこで、通謀の有無にかかわらず、①虚偽外観、②本人の帰責性、③第三者の正当な信頼が認められる場合には、94条2項を類推適用すべきである。
 本問ではCが悪意または有過失の場合には、Cは甲土地の所有者ではないのに登記名義を有していることになるので、①の要件をみたす。また、Bが濫用の意図を知りながらC名義の登記を放置するなどしていて帰責性が認められる場合には、②の要件をみたす。③の要件については、Dは善意であれば足りると考える。条文上は善意が要求されているにすぎないからである。
 以上の要件をみたす場合には、甲土地が自己の所有であるというBのDに対する主張は認められない。

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問2
 意思表示の効力が詐欺によって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決する(101条1項)。よって、代理人AがCに騙されて当該売買契約を締結しているので、本人Bは、Cとの当該契約を取り消すことができ(96条1項)、これにより当該契約は遡及的に無効となる(121条本文)ため、Cは、甲土地につき無権利者となる。そして、登記には公信力が認められていないから(192条反対解釈)、C名義の登記を善意・無過失で信頼し、甲土地を買い受けても、Dは甲土地の所有権を取得できないのが原則である。
 しかし、これでは、一度取消しの意思表示をすれば、登記を放置していても第三者は保護されず、著しく不動産取引の安全を害する。そこで、どのようにして第三者を保護すべきか。その法的構成が問題となる。
 96条3項を適用することが考えられる。しかし、96条3項の「第三者」とは取消前に新たな利害関係を有するに至った者に限られると考える。同項は取消しの遡及効を制限して第三者の保護を図る規定だからである。とすると、取消しの後に甲土地を転買い受けているCは、「第三者」に該当しない。
 つぎに、悪意者は保護に値しないから、C名義の登記の放置についてBに帰責性が認められる場合には94条2項を類推適用することが考えられる。しかし、これによると帰責性の有無、善意、無過失の判断基準が不明確であり、第三者の保護としては十分ではない。
 そこで、登記の有無という画一的な基準で法律関係を処理することが第三者の保護にふさわしく、ひいては不動産取引全体の安定に資することになる。すなわち、取消しによって復帰的物権変動があったものと考え、取り消しをした者と第三者は対抗関係にあるものとして、177条を適用すべきである。取消しの遡及効は一種の法的擬制にすぎず、物権変動があったのは事実であるし、詐欺された者は取消しの後ならば登記を回復しうるので、それを怠ったならば不利益を課されてもやむをえないからである。
 以上から、Bは、登記を回復していないので、甲土地が自己の所有であるとのBのDに対する主張は認められない。

第6問

問1
 小問(1)について
 AがBによる賃借権の無断譲渡を理由にAB間の賃貸借契約を解除(612条2項)するには、Bによる乙建物のDへの贈与が、甲土地の賃借権の「譲渡」(612条1項)といえる必要がある。借地上の建物の譲渡は賃借権の「譲渡」に該当すると考える。建物の譲渡により従たる権利である賃借権も移転し(87条2項類推適用)、譲受人は独立して土地を使用収益することになるからである。
 よって、Aは、AB間の賃貸借契約を解除することができるのが原則である。
 しかし、解除権の行使に一定の制約を設けて賃借人を保護すべき場合もある。そこで、どのような法的構成でもって解除権を制約すべきかが問題となる。
 612条2項が賃貸人の承諾のない賃借権の譲渡を解除できるとしたのは、賃貸借が当事者の信頼関係を中核とする継続的契約であることから、当事者の交替は、通常、信頼関係の破壊を意味するためである。とするならば、たとえ無断で賃借権が譲渡されたとしても、背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には、解除権は発生しないと考える。そして、賃貸借当事者の信頼関係は経済的関係のみならず人的関係をも基礎とするから、特段の事情の有無は、物的要素の他に人的要素も考慮して実質的に判断すべきである。
 本問では、甲土地及び乙建物の使用状況は贈与の前後で変化はなく、賃料もAに対して従前と同様に継続して支払われているから、人的にも物的にも背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある。以上より、Aは、AB間の賃貸借契約を解除することができない。
 小問(2)について
 甲土地の所有権を取得したEは、Dに対して、乙建物の収去と甲土地の明渡しを請求することが考えられるが、これは認められない。Dは乙建物の所有権移転登記を経由して甲土地の賃借権につき対抗要件(借地借家法10条1項)を備えているからである。
 では、甲土地の所有権を取得したEは、Dに対して、賃貸人たる地位を主張できるか。賃貸人たる地位は所有権の移転に伴って当然に移転するし、これにつき賃借人の同意も不要と考える。建物賃借人から賃借権を対抗されるときは、建物に居住できない新所有者としてはせめて賃貸人として賃料は請求したいと考えるのが通常だし、賃貸人の債務は所有者であれば誰でも履行できるからである。ただし、賃料を請求するには、所有権登記が必要と考える。賃料の二重払いを防止するためには、明確な基準を要求すべきだからである。
 以上より、Aは賃貸借関係から離脱し、所有権移転登記を経由しているEは、Dに対して、賃貸人たる地位を主張して賃料を請求することができる。

問2
 FがGに対して転貸料の支払いを請求できる場合としては、BによるBF間の賃貸借契約の解除が無効であるか、有効であってもDに対抗できない場合が考えられる。そして、Bによる解除はFの賃料不払いという債務不履行(415条)に起因する。そこで、賃借人の債務不履行による解除についてはどの規定を適用すべきか。賃貸借には債務不履行解除についての特別規定がないことから問題となる。
 541条を適用すべきである。特別規定がない以上、一般的規定である541条を適用するのが、自然だからである。ただし、軽微な義務違反でも解除できるというのでは、債務者に酷であるし、逆に、重大な義務違反でも催告しないと解除できないというのでは、債権者に酷である。そこで、当事者の信頼関係が破壊されていなければ解除できないが、逆に、信頼関係が破壊されていれば、無催告解除ができると考える。
 Bは、Fに対して、相当期間を定めて催告したが、その期間経過後も支払がなく、信頼関係は破壊されているから、その解除は有効である。
 もっとも、その解除が有効であるとしても、転借人には無関係な事情で転借権を奪うのであるから、転借人が弁済によって転借権を保全する機会を保障するため、催告しなければ解除を転借人に対抗できないとも考えられる。
 しかし、催告は不要と考える。賃貸人は、転借人に対して権利を有する(613条1項)が、義務を負うものではないし、賃貸人は賃借人の債務不履行を理由としてやむをえず解除するのであり、その解除権の行使は制限されるべきでないからである。
 よって、Bは、催告をしていなくても解除をGに対抗できる。
 では、BがBF間の賃貸借契約を解除したことによりFG間の転貸借契約が終了するのは、いつか。解除をした時か、それとも明渡しを請求した時か。
 たしかに、転貸借契約は賃貸借契約とは別個の契約だから、賃貸借契約が終了したことにより転貸借契約が当然に終了するわけではない。
 しかし、賃貸人が転借人に対して賃貸目的物の返還を請求した場合には、社会通念上、転貸する債務の履行は不能になる。よって、転貸借契約は明渡請求の時点で終了すると考える。
 よって、Fは、Gに対して、Bによる明渡請求までに生じていた転貸料の支払は請求することができるが、Bによる明渡請求後に生じた転貸料の支払を請求することはできない。

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上記解答について

※上記解答は独自に作成されたものであり、「公認会計士・監査審査会」が公式に発表したものではございません。ご理解のうえ、ご利用下さい。

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